肩甲骨から上腕骨に付着する肩甲下筋は上腕骨頭を肩甲窩に近づけて安定させているローテーター・カフ(回旋腱板)の一つです。
肩甲下筋は広背筋や大円筋とともに働きますが、肩甲下筋単独での力は強いものではなく、肩関節を安定させ、肩関節の内旋と内転、および伸展を補助する筋肉です。
肩甲下筋の解説
肩甲骨前面の肩甲下窩前面から上腕骨の小結節に付着する肩甲下筋はローテーター・カフの一つとして、前方から上腕骨を肩甲窩に近づけて肩関節の安定を保持しています。
肩関節は可動域が非常に大きい関節ですが、その可動性の高さゆえに不安定な関節で、肩甲下筋は上腕骨頭の前方の安定性を保っています。
肩甲下筋は広背筋や大円筋とともに働きますが、この2つの筋肉に比べて停止部が肩関節により近いため肩甲下筋単独での力はさほど強いものではありません。
肩甲下筋や大円筋が有効に働くためには菱形筋(大菱形筋・小菱形筋)が働き、肩甲骨をしっかりと固定している必要があります。
起始部:
肩甲骨前面の肩甲下窩前面
停止部:
上腕骨の小結節
機能:
- 肩関節の内旋:上腕骨が軸を中心に内側へ回る動き
- 肩関節の内転:外転位にある上腕を体幹に近づける動き
- 肩関節の伸展:上腕がまっすぐ後方に向かう動き
- 肩関節前方の安定化:ローテーター・カフの一つとして上腕骨頭の安定化
肩甲下筋の起始部
肩甲下筋の起始部は肩甲骨前面の肩甲下窩前面です。(画像では裏側)
肩甲下筋のように肩甲骨から上腕骨に付着して肩関節を動かす筋肉は、肩甲骨の各部位を知っておくとその働きも理解しやすくなります。
肩甲下筋の停止部
肩甲下筋の停止部は上腕骨小結節です。
上腕骨の小結節や大結節は肩甲下筋を含むローテーター・カフの筋群が付着する部分で、これらの筋群が上腕骨頭を肩甲窩に近づけて安定性を保っています。
神経支配
肩甲下神経(C5・6)
肩甲下筋の触診
肩甲下筋は肩甲骨の前面を走行する筋肉なので触診はできません。
肩甲下筋の働き
肩甲下筋単独での力は強いものではなく、広背筋の補助筋として肩関節の内旋と内転、および伸展に作用します。
肩関節の内旋
肩甲下筋の肩関節の内旋とは、上腕骨がその長軸を中心に内側に向かう動きで、肩関節が内旋するとき、肩甲帯(肩甲骨)は外転をします。
肩関節を内旋させる大きな筋肉には三角筋(前部)・肩甲下筋・大円筋・広背筋・大胸筋(下部)などがあり、一般的に肩関節は70~90°の内旋が可能です。
肩関節の内転
肩甲下筋の肩関節の内転とは、上腕が体幹の方へ近づいていく動きで肩関節の内転に伴い、肩甲帯(肩甲骨)は下方回旋します。
烏口腕筋、肩甲下筋、大円筋、広背筋、大胸筋(下部)などが肩関節を内転させる大きな筋肉で、一般的に肩関節は体幹の前面で75°の内転が可能です。
肩関節の伸展
肩甲下筋の肩関節の伸展とは、上腕骨が後方に向か動きで、肩甲骨は下制か下方回旋をします。
肩関節を伸展させる大きな筋肉には三角筋(後部)・小円筋・肩甲下筋・大円筋・大胸筋(下部)などがあり、肩関節は一般的に40~60°の伸展が可能です。
肩関節の安定化
球関節に分類される肩関節は非常に高い可動性を持っていて多方向に動けるがゆえに、不安定な関節です。
肩関節では亜脱臼や脱臼などの障害が生じやすく、ローテーター・カフを構成する棘上筋や棘下筋なども筋挫傷や完全断裂、骨と骨に挟まれる障害(インピンジメント)といった障害を受けます。
ローテーター・カフの中で、肩甲下筋は上腕骨頭の前方、棘上筋や棘下筋、小円筋などは上腕骨頭の後方の安定性を保持しています。
機能強化
広背筋や大円筋を鍛える運動で肩甲下筋も鍛えることができますが、肩甲下筋の走行や起始部や停止部を意識してトレーニングを行うことで集中的に鍛えることができます。
筋力強化
懸垂やロープクライミングのような運動で肩甲下筋は鍛えることができますが、肘を身体に付けて(肩関節を0°の外転位で)肩関節を内旋することにより特に肩甲下筋を鍛えることができます。
ストレッチング
肩甲下筋はその働きの逆の動き、上腕骨を外転、および外旋することでストレッチングが可能です。
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