肩甲帯(肩甲骨・鎖骨)を動かす僧帽筋は首や肩の表層を広く覆う筋肉で、僧帽筋は上部・中部・下部に分けられ、それぞれの部位の働きも違います。
肩甲帯(肩甲骨)と肩関節は上肢の動きに応じて同時に働くので、僧帽筋を理解するには肩甲帯の構造と働きを理解しておくといいでしょう。
僧帽筋の解説
僧帽筋は肩甲骨を動かす筋肉、肩甲骨を安定させる筋肉だといえます。
僧帽筋は幅広く走行し、上部・中部・下部に分けられ、それぞれ働きも違う筋肉なので部位別に働きを理解しましょう。
僧帽筋の起始部
- 上部:後頭骨と項靭帯
- 中部:第7頸椎と第1~第3胸椎の棘突起
- 下部:第4胸椎~第12胸椎の棘突起
僧帽筋の停止部
- 上部:鎖骨の外側1/2
- 中部:肩峰と肩甲棘
- 下部:肩甲骨内側1/3
僧帽筋の働き
- 上部:肩甲骨の挙上
- 中部:肩甲骨の挙上、内転、上方回旋
- 下部:肩甲骨の下制、内転、上方回旋
僧帽筋の上部
僧帽筋の上部は薄く比較的に力が弱いので頸椎の動き(首の動き)にはさほど重要ではなく、肩甲帯を構成する鎖骨の挙上(引き上げ)に特に働きます。
僧帽筋の中部
僧帽筋の中部は厚く力も強い部位です。
僧帽筋の中部は肩甲骨を挙上、内転、上方回旋させます。
僧帽筋の下部
僧帽筋の下部は力は弱く、肩甲骨を下制させ、内転、上方回旋させる補助をします。
3つ部位が同時に働くと?
僧帽筋の3つの部位が同時に働くと肩甲骨は上方回旋と内転を同時にします。
また、僧帽筋は三角筋の働きを助けるために肩甲骨を安定させたり、重いものを持つときに肩甲骨が下に引っ張られないようにする役割も持ちます。
僧帽筋が肩甲骨を上方回旋させているからこそ、手を頭の上まで上げることができるのです。
日常の動作では僧帽筋は肩に物を担いで運んだり、手で物を持ち上げるときによく使われます。
僧帽筋の起始部
僧帽筋は後頭骨と項靭帯、第7頸椎と第1~第3胸椎の棘突起、第4胸椎~第12胸椎の棘突起に起始部を持ちます。
背骨の一つ一つの骨は椎骨で椎骨の椎体同士の間にはクッションの役割を持つ椎間板(椎間円板)が挟まっています。
椎骨の後部の出っ張りが棘突起で僧帽筋が付着する部位で、肩甲帯を動かす大菱形筋や小菱形筋なども付着する部位です。
僧帽筋の停止部
僧帽筋の停止部は肩甲骨と鎖骨で僧帽筋が収縮することにより肩甲骨が動き、肩甲骨と肩鎖関節で接合する鎖骨が動きます。
肩甲骨は各部位に名称がついていますが、僧帽筋は鎖骨の外側1/2、肩峰と肩甲棘、肩甲骨内側1/3に停止部を持ちます。
僧帽筋の神経支配
副神経、頚椎神経(C3・4)
僧帽筋の触診
僧帽筋は首の後方から第12胸椎にかけての背骨から肩甲骨にわたる範囲で触診が可能です。
僧帽筋の働き
僧帽筋の働きを理解するためには肩甲骨の動きを理解しなければなりません。
肩甲骨と鎖骨は肩甲帯を構成し、肩甲骨は上腕骨と肩関節、鎖骨と肩鎖関節を構成しますが、肩甲骨と鎖骨は別々の骨として動くのではなく一つのユニットとして働き肩甲骨を動かします。
肩甲骨の主な動きは外転と内転、挙上と下制、上方回旋と下方回旋があり、僧帽筋は肩甲骨の挙上と内転、上方回旋と下制に働く筋肉です。
肩甲骨の動き
挙上(僧帽筋上部・中部)
僧帽筋の挙上の働きとは肩甲骨を引き上げる動きで、肩をすくめるうごきが肩甲骨の拳上の動きです。
肩甲骨の挙上には僧帽筋(上部・中部)、大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋などが関与します。
内転(僧帽筋中部・下部)
僧帽筋の内転の働きとは肩甲骨が脊柱の方向に近づく動きで、主に僧帽筋(中部・下部)、大菱形筋、小菱形筋、肩甲挙筋が肩甲骨を内転させる筋肉です。
上方回旋(僧帽筋中部・下部)
僧帽筋の肩甲骨の上方回旋とは、肩甲骨が上方と外側に同時に動くことで、腕を振りかぶり、肩関節とともに肩甲骨が動くような動きです
肩甲骨の上方回旋には僧帽筋(中部・下部)、前鋸筋などの筋肉が関与します。
下制(僧帽筋下部)
僧帽筋の肩甲骨の下制とは肩甲骨を引き下げる動きで、肩甲骨を下制させる筋肉には僧帽筋(下部)、小胸筋、鎖骨下筋などがあります。
機能強化
僧帽筋は広範囲にわたり走行し、部位により働きも違うので、部位別の筋力強化やストレッチングが望ましい筋肉です。
筋力強化
僧帽筋の上部と下部を鍛えるには、肩をすくめる動作(ショルダーシュラッグ)というエクササイズが効果的です。
重力逆らいゆっくり肩を上げ下げしてもいいし、重りをもって行っても効果的です。
僧帽筋の中部と下部はベント・オーバー・サイド・レイズというエクササイズが効果的で、これは膝を軽く曲げたって両足を肩幅に開き、上体を床と平行にしてからダンベルを肩の高さまで引き上げる運動です。
引き上げるときと戻す時に腕の力ではなく、背中の力に意識を向けると、腕の筋肉ではなく僧帽筋の中部~下部を集中的に鍛えることができます。
ストレッチング
僧帽筋の上部はストレッチする方の手をテーブルなどの下に引っ掛けて肩甲骨を下制し、反対側に手で頭を屈曲、側屈することで伸ばすことができます。
僧帽筋の中部は上部の方法でもいいし、他者に完全外転位まで引っ張ってもらうことでもストレッチングが可能です。
僧帽筋の下部は側臥位になり、他者が肩甲骨の外側縁と下角を持ち最大限まで挙上や外転位に持っていくことでストレッチングが可能です。
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